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アートがもたらす癒し、私の介護を支えた臨床美術

上手も下手も関係なく、楽しみながら作品を作ることで、脳の活性化やリラックス効果を促す臨床美術。考案されて日が浅いこともあり、耳慣れないと感じる人も多いだろう。そんな臨床美術を中心とした事業を行うことになったきっかけは何だったのか? ――記者がそう問いかけると、NPO法人アートゆるりの細見さんは「わたしの個人的な話になってしまうけど……」と、少し照れくさそうに口を開いた。

「両親が認知症になってしまって、介護がトータルで16年間つづいたんです。誰かに助けを求められればよかったんだけど、若い頃はなかなかそれがうまくできなくて……」

介護する人もされる人も癒すことができる臨床美術

父が旅立ち、母の介護をつづけるなかで、少しでも認知症の進行を抑えながら楽しめるようなことを母にさせてやれないか……、そんな思いが芽生えてゆく。そして見つけたのが臨床美術だった。

「母は40年くらい和紙のちぎり絵をやっていたんです。病気が進めばできないことは増えていくけど、ちぎり絵はできた。好きでつづけていたことっていうのは、忘れずにできるものなんですね」

そうして母とともに、ちぎり絵をしていくうちに、自分自身がアートに癒されていることに気がついた。癒しの時間、嫌なことを忘れる時間を作ることで、介護をするときも気持ちに余裕が出てくる。介護をする人もされる人も癒すことのできる臨床美術。これで人助けができるならぜひともしてみたい――こうして、細見さんの活動が始まった。

絵が下手だと思っている人も夢中にさせる

このNPOは当初、認知症予防のための高齢者向けワークショップを行っていたが、現在は発達障害の子供や、働く世代向けのワークショップも行っている。作品に没頭することで癒しの時間を作り、作品を褒められることで自尊感情が高まる。これらのサイクルは、老若男女問わず心のケアにつながるという。

ワークショップの内容にも、参加者が思わず夢中になってしまうような工夫が凝らされている。たとえば、りんごの絵を描くにしても、輪郭を描いて赤いクレヨンでべた塗りをするだけでは、とてもではないが夢中にはなれないだろう。このNPOのワークショップでは、まず実際のりんごを触り、香りをかぎ、そして切って食べてみる。赤や黒のクレヨンで輪郭を描いてしまうのではなく、緑や黄色、そして赤、様々な色のクレヨンを何度も塗り重ねながら、少しずつりんごの色合いや質感を表現してゆく。地道ながらも丁寧な作業が、「自分は絵が下手だから……」と思っている人をも夢中にさせてしまうのだ。

アートに触れられる・楽しめる場所を目指して

細見さんの今後の目標は、このNPOのアトリエを作ることだという。今はレンタルスペースや市民会館などでワークショップや作品展を行っているが、いつかは自分たちのアトリエをもって、ここへ行けばアートに触れられる・アートを楽しめる、そんな場所を作りたいという。

「それが夢でもあり、現実にしたいことかな。1番遠いけど……、『来い来い』って思っている夢です」

自分たちのアトリエで、色とりどりの作品に囲まれながらワークショップを楽しむ、このNPOのメンバーと利用者の方々。そんな風景をふと想像しながら、心温まる取材となった。

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